Low-Pressure GC-MS (LPGC-MS)の概要
MSの真空を利用して分析を大幅にスピードアップ
- 食品中の多成分残留農薬分析を3倍に高速化。
- 製造元で接続するリークのないキットにより、カラム交換と同じくらい簡単なLPGCのセットアップ。
- 高速GC-MSおよびGC-MS/MS法に最適。
- 一体型トランスファラインにより、バックグラウンドと安定化時間が低減。
GC検出システムとして質量分析計を使用することは、化合物の同定と定量化に関して多くの利点がありますが、GC-MSユーザーは、MSの真空を利用してカラム内の圧力を下げることにより分析を高速化するという、もう一つの手つかずの機会を持っています。真空の影響を受けるカラムの領域は、カラムサイズに依存し、従来のカラムサイズでは、カラムの最後の数メートルに制限されていました。しかし、カラム全体の圧力を下げると、本当にスピードアップが可能です!
Low-pressure GC-MS (LPGC-MS)は、MSの真空システムと特別に設計されたカラム設定を使用して、カラム全体の圧力を下げ、分析を大幅に高速化する手法です。MSに直接導入される0.53mm分析カラムとGC注入口側の流量リストリクタを使用することにより、0.53mm分析カラム全体にわたって真空を維持することができます。LPGC-MSを使用すると、ある程度の効率は速度と引き換えになりますが、質量分析計が使用されるので、ほとんどの共溶出成分は、MSによってデコンボリューションできます。
図1は、従来のGC-MSセットアップを使用した場合と比較して、GCカラム内の圧力を下げることで達成できる速度と感度の性能向上の例を示しています。この手法はそれほど驚くべきことではなく、「vacuum-outlet GC」、もしくはより一般的には「low-pressure GC-MS」またはLPGC-MSとして知られます。この記事では、LPGC-MSと特別なLPGCカラムキットを利用してガスクロマトグラフィー分析を高速化する方法について説明します。
図 1: 食品中の農薬のこの分析では、LPGC-MSを使用すると、効率の低いカラムを使用した場合でも従来のセットアップと比較して3倍高速化されます。線速度が増加するため、ピーク幅は狭くなり、より高いピークが生成され、感度が向上する可能性があります。さらに、密集したピークでも、通常はスペクトルで分離できます。
![cgarm-img](https://ez.restek.com/images/cgram/gc_fs0573.png)
Peaks | Conc. (...) | tR (30 m) | tR (LPGC) | |
---|---|---|---|---|
1. | Chloroneb | 0.4 | 10.337 | 4.225 |
2. | Pentachlorobenzene | 0.4 | 10.562 | 4.320 |
3. | α-BHC | 0.4 | 12.956 | 4.939 |
4. | Hexachlorobenzene | 0.4 | 13.154 | 4.997 |
5. | Pentachloroanisole | 0.4 | 13.273 | 5.017 |
6. | β-BHC | 0.4 | 13.610 | 5.106 |
7. | δ-BHC | 0.4 | 13.773 | 5.154 |
8. | γ-BHC | 0.4 | 14.341 | 5.293 |
9. | Tefluthrin | 0.4 | 14.466 | 5.232 |
10. | Endosulfan ether | 0.4 | 14.803 | 5.419 |
11. | Transfluthrin | 0.4 | 15.415 | 5.490 |
12. | Heptachlor | 0.4 | 15.504 | 5.592 |
13. | Pentachlorothioanisole | 0.4 | 16.086 | 5.745 |
14. | Anthraquinone | 0.4 | 16.279 | 5.803 |
15. | Aldrin | 0.4 | 16.317 | 5.803 |
16. | 4,4'-Dichlorobenzophenone | 0.4 | 16.511 | 5.827 |
17. | Fenson | 0.4 | 16.708 | 5.885 |
18. | Isodrin | 0.4 | 16.987 | 5.980 |
19. | Heptachlor epoxide | 0.4 | 17.235 | 6.035 |
20. | Bioallethrin | 0.4 | 17.405 | 5.994 |
21. | Chlorbenside | 0.4 | 17.626 | 6.123 |
22. | trans-Chlordane | 0.4 | 17.766 | 6.167 |
23. | 2,4'-DDE | 0.4 | 17.871 | 6.171 |
24. | Endosulfan I | 0.4 | 18.052 | 6.249 |
25. | cis-Chlordane | 0.4 | 18.109 | 6.256 |
26. | trans-Nonachlor | 0.4 | 18.218 | 6.279 |
27. | Chlorfenson | 0.4 | 18.232 | 6.226 |
28. | 4,4'-DDE | 0.4 | 18.569 | 6.337 |
29. | Dieldrin | 0.4 | 18.630 | 6.395 |
30. | 2,4'-DDD | 0.4 | 18.756 | 6.395 |
31. | Ethylan | 0.4 | 19.106 | 6.460 |
Peaks | Conc. (...) | tR (30 m) | tR (LPGC) | |
---|---|---|---|---|
32. | Endrin | 0.4 | 19.116 | 6.550 |
33. | Endosulfan II | 0.4 | 19.303 | 6.528 |
34. | 4,4'-DDD | 0.4 | 19.480 | 6.575 |
35. | 2,4'-DDT | 0.4 | 19.562 | 6.603 |
36. | cis-Nonachlor | 0.4 | 19.592 | 6.633 |
37. | Endrin aldehyde | 0.4 | 19.715 | 6.674 |
38. | 4,4'-Methoxychlor olefin | 0.4 | 20.079 | 6.708 |
39. | Endosulfan sulfate | 0.4 | 20.225 | 6.803 |
40. | 4,4'-DDT | 0.4 | 20.290 | 6.783 |
41. | 2,4'-Methoxychlor | 0.4 | 20.521 | 6.827 |
42. | Resmethrin | 0.4 | 20.793 | 5.980 |
43. | Endrin ketone | 0.4 | 21.235 | 7.082 |
44. | Tetramethrin 1 | 0.4 | 21.245 | 6.990 |
45. | Tetramethrin 2 | 0.4 | 21.388 | 7.018 |
46. | Bifenthrin | 0.4 | 21.402 | 7.011 |
47. | Phenothrin 1 | 0.4 | 21.841 | 7.130 |
48. | Tetradifon | 0.4 | 21.939 | 7.211 |
49. | Phenothrin 2 | 0.4 | 21.956 | 7.157 |
50. | Mirex | 0.4 | 22.436 | 7.388 |
51. | lambda-Cyhalothrin | 0.4 | 22.545 | 7.293 |
52. | Acrinathrin | 0.4 | 22.742 | 7.310 |
53. | cis-Permethrin | 0.4 | 23.388 | 7.535 |
54. | trans-Permethrin | 0.4 | 23.534 | 7.565 |
55. | Cyfluthrins | 0.4 | 24.065-24.310 | 7.698-7.745 |
56. | Cypermethrins | 0.4 | 24.436-24.677 | 7.793-7.847 |
57. | Flucythrinate 1 | 0.4 | 24.677 | 7.844 |
58. | Flucythrinate 2 | 0.4 | 24.898 | 7.899 |
59. | Fenvalerate 1 | 0.4 | 25.500 | 8.079 |
60. | tau-Fluvalinate 1 | 0.4 | 25.715 | 8.113 |
61. | Fenvalerate 2 | 0.4 | 25.732 | 8.140 |
62. | tau-Fluvalinate 2 | 0.4 | 25.773 | 8.113 |
63. | Deltamethrin | 0.4 | 26.337 | 8.324 |
Column | See notes |
---|---|
Standard/Sample | GC multiresidue pesticide standard #2 (cat.# 32564) |
GC multiresidue pesticide standard #6 (cat.# 32568) | |
Diluent: | Acetonitrile |
Conc.: | 2 µg/mL |
Injection | |
Inj. Vol.: | 2 µL split (split ratio 10:1) |
Liner: | Topaz 4.0 mm ID straight inlet liner w/ wool (cat.# 23444) |
Inj. Temp.: | 250 °C |
Carrier Gas | He |
Detector | TSQ 8000 | |
---|---|---|
SIM Program: | 35-550 m/z | |
Transfer Line Temp.: | 290 °C | |
Analyzer Type: | Quadrupole | |
Source Temp.: | 330 °C | |
Tune Type: | PFTBA | |
Ionization Mode: | EI | |
Instrument | Thermo Scientific TSQ 8000 Triple Quadrupole GC-MS | |
Notes | The reference standard is also available as part of Restek’s 200+ compound GC multiresidue pesticide kit (cat.# 32562). Conventional (30 m) Analysis: Column: Rxi-5ms, 30 m, 0.25 mm ID, 0.25 µm (cat.# 13423) Temp. program: 90 °C (hold 1 min) to 330 °C at 8.5 °C/min (hold 5 min) Flow: 1.4 mL/min LPGC-MS Analysis: Column: LPGC Rtx-5ms column kit, includes 15 m x 0.53 mm ID x 1.00 μm analytical column w/1 m x 0.53 mm ID integrated transfer line and 5 m x 0.18 mm ID Hydroguard restrictor factory connected via SilTite connector (cat.# 11800). Temp. program: 80 °C (hold 1 min) to 320 °C at 35 °C/min (hold 5 min) Flow: 2 mL/min |
高速GC-MSにLPGC-MSを使用する理由
高速GC-MSの選択肢の中からLPGC-MSを選択するのはなぜでしょうか。MS分析には通常、30m、0. 25mm内径のカラムが使用されます。このサイズは約120,000の理論段数を生成し、MSの真空ポンプ能力内で最適なキャリヤガス流量を有し、カラムの末端が真空であるにもかかわらず、正の注入口圧力を維持することができます。
流量で最適化された30m、0.25mm内径のカラムの分析速度を上げる方法はいくつかあります。ここでは、図1で使用されるLPGC-MSアプローチと比較してみました。
- より短く、より内径の細いカラムを使用
10 m x 0.10 mmのカラムでは、30 m x 0.25 mmのカラムと同様の効率(理論段数)と分離能が得られます。しかしこのサイズは、試料負荷量が非常に小さく、ピーク形状の異常(例えば、「フロンティング」)を回避するためには、極めて低い濃度または少ない注入量が求められます。 - より高い流量で30 m x 0.25 mmカラムをMSに使用
流量の増加は、分析時間を短縮するための最も簡単な方法です。しかし、3倍速い分析時間を得るためには、約12 mL/minの流量が必要であり、これには約63 psiの注入口圧が必要です。これは、注入、MSのデータ取り込み速度、およびMSポンプ容量にとって問題があります。 - 最適なキャリヤガス流量で10 m x 0.25 mmのカラムを使用
長さが1/3のカラムは、約40,000の理論段数を有し、3~4倍速い分析時間が得られるはずですが、このカラムに必要とされる入口圧力は約0.35 psiであり、制御が非常に困難です。このような圧力では、スプリット注入は課題となり、カラムカットは圧力に影響するのでほとんど不可能であり、ピーク幅が非常に狭いため、MSのデータ取り込みが困難になる可能性があります。 - LPGCカラムキットを使用
LPGCカラムキットは、15 m x 0.53 mmの分析カラムに、製造元で5 m x 0.18 mmのリストリクタカラムを接続したものです。この構成は、約30,000の理論段数を生成し、約2 mL/minの標準流量で操作することができます。内径0.53 mmの分析カラム内は真空下にあるため、最適なキャリヤガス線速度は非常に高く、その結果、分析時間は非常に短くなります (通常、30 m x 0.25 mmのカラムの場合よりも3倍速くなります)。ピーク幅は1.5~2秒であり、十分なMSデータ取り込みに足りる幅です。さらに、0.53 mmカラムは、膜厚1 µmの Rtx-5msにより試料負荷量は高くなっています。
LPGC-MSはどのように分析をスピードアップさせるのか?
LPGC-MSが提供しなければならない利点の核心は、「低圧」という概念です。なぜ低圧が重要であるかを理解するために、カラムの「最適線速度」の考えから始めましょう。
いずれのGCカラムにも、効率的な分離を生み出すキャリヤガス線速度が存在します。キャリヤガスの線速度が低すぎると、ピークが広がり、分離能が低下します。速すぎると、サンプルのさまざまな成分がカラムの固定相と相互作用するのに充分な時間がなくなり、やはり分離能が失われます。このため、GCカラムをそのキャリヤガスの最適線速度で操作することは、クロマトグラフィーシステムで最大の分離能を実現するための重要な要素です。
最適線速度は圧力に依存する値であることを理解することが重要です。GCカラム全体の圧力を下げるとキャリヤガスの粘性が下がり、最適な線速度が上がります(図2)。特定のカラムでは、他のすべてが一定のままである場合、はるかに短い時間で極めて類似した分離が得られます。
図 2: より低い圧力条件においては、より高い線速度で最大効率が得られる、つまり最もHETP値が小さくなることをVan Deemterプロットは示しています。(HETP=理論段相当高さ)
しかし、GCカラムの全長にわたって圧力を低下させることは容易ではありません。これは、GC-MSアプリケーションにおいて一般的に使用されるカラムサイズ(例えば、30m、0.25mm ID)で特に当てはまります。次のセクションでは、GCカラム全体にわたって圧力を下げようとする場合に起こり得る、いくつかの問題に対する実際的な解決策について説明します。この解決策には、全体的なクロマトグラフィー効率を引き換えに、LPGC-MSの大幅な速度向上とのバランスがとれる特定のカラムフォーマットを含みます。
後述するように、内径0.53 mmの比較的短いGCカラムを使用すると、カラムを質量分析計に接続したときに、カラムの排気が可能になります。より短く、より内径の太いGCカラムは、本質的に、より長く、内径の細いGC-MSカラムサイズよりも理論段数(カラム効率の尺度)が小さくなります。結果として、LPGC-MSカラムキットは、より長くて内径の細いGC-MSのカラム構成よりもクロマトグラフィー分離能が低くなります。ただし、後で説明されるように、質量分析計のスペクトル分離能がほとんどの場合、この全体的なクロマトグラフィー分離能の低下を補います。
歴史的なハードル
Low-pressure GCは、1960年代から理論的に文献に記載されており、それ以来、世界中のラボで試されていますが、普及はしていません。なぜでしょうか? より短時間で同じような結果を望まない人はいるでしょうか。LPGC-MSの普及における障壁は、従来、クロマトグラフィーの性能に関する問題ではありませんでした。実際、この技術の利点は広く認識されています[1,15]。むしろ、導入における障害は、機器の設定自体の課題によるものでした。
歴史的に、GCカラム全体で大幅に減圧された条件で操作することは、実験的に設定するのが容易ではありませんでした。注入口でヘッド圧を構築できるようにしながら、GCカラムの全長にわたるように出口で効果的に排気する手段が必要ですが、この手段は必ずしも単純ではありません。
一つの優れた解決策は、GCに接続された質量分析計の真空システムを利用することでした。MSから空気とキャリヤガスをポンプで排出するのと同じ真空は、GCカラムの圧力を下げるのにも役立ちます。ただし、GCカラムを効率的に排気するには、比較的短く内径の大きなカラムが必要であり、これは、GC注入口のヘッド圧力を維持するという問題をもたらしました。真空がカラム完全に広がるため、安定したヘッド圧力を達成することは困難または不可能です。
その問題は、分析カラムのフロントエンドに「リストリクタカラム」を導入することにより、2000年代初めにエレガントに解決されました。この比較的短い長さの非常に細いキャピラリーチューブにより、GC注入口で圧力を上げることができ、MSの真空で分析カラム内の圧を効果的に下げることができました。これは有望な解決策でしたが、新たな問題が持ち上がりました。それは、リストリクタカラムと分析カラムとの間の接続です。
カラムコネクタは、GCオーブンの厳しい環境に耐えられるように、極めて信頼性が高く、堅牢である必要があります。 Low-Pressure GC条件では特に負担になる可能性があり、カラムコネクタの不具合はカラム交換と再分析することを意味します。こうして、異なる直径のカラム(例えば、0.18 mm 内径カラムから0.53 mm 内径カラム)間の接続という固有の困難と相まって、多くのユーザーが、LPGC-MSセットアップは日常的な使用には難しすぎると考えるようになりました。
LPGC-MSが提供することができる大幅な時間節約の多くの実証にもかかわらず、これらの問題の多くが、この手法の広範な採用を妨げてきました。Restekは、製造元で接続されたLow-Pressure GC(LPGC)カラムキットを用いて、これらの課題に対する解決策を提供するに至りました。
シンプルなソリューション - LPGCカラムキット
LPGCカラムキットは、これまで採用の障壁となっていたハードルを克服し、LPGC-MSのセットアップをより簡単にし、それがもたらすスピードの向上を利用できるようにします。LPGCカラムキットは、一体化されたトランスファラインを含む分析カラムとリストリクタカラムを製造元で接続し、その接続は堅牢でゼロデットボリュームです(図3)。このためLPGCカラムキットはこの手法をより容易にします。LPGCカラムキットは、簡単に設置できるように特別に設計されており、各キットは漏れのない性能を保証するために試験されています。つまり、LPGC-MSのセットアップは、現在、通常のカラム交換と同じくらい簡単におこなうことができます。
図 3: Low-Pressure GCカラムキットの構成
長さ5 m、内径0.18 mmのHydroguard不活性化処理チューブは、カラムキットの注入口側のリストリクタカラムとして機能します。GC注入口に直接取り付けられ、注入口が安定したヘッド圧を確立して維持できるようになります。リストリクタカラムは、不活性で低デッドボリューム、低熱容量のカラムコネクタであらかじめ接続されており、数百回にわたる昇温分析でもリークしません。LPGC-MSの成功に不可欠な安定したリークのない接続を確立するために、この接続はRestekでの製造工程の一部としておこなわれます。
分析カラムのサイズは、MSの真空システムがカラムの全長にわたって圧力を下げることができるように特別に選択されており、従来の30 m、0.25 mmの内径カラムと比較して、より短時間で効率的な分析を可能にします。5系の液相と膜厚により、このカラムセットは特に汎用性があります。
リストリクタカラムと分析カラムに加えて、Restek Low-Pressure GCカラムキットには、GC-MSでの使用に最適な機能があります。それは一体型トランスファラインです。GCカラムは、一般に一定の高温に保たれた独立した加熱部であるトランスファラインを介して質量分析計に直接接続されることがほとんどです。最も頑健なGCカラム固定相でさえ、このような条件下では劣化します。性能を向上させるために、分析カラムとなっている0.53 mmチューブには、コーティングされた部分の後に、コーティングされていない不活性化表面が1 m追加されています。このコーティングされていない部分は、一体型トランスファラインとして機能し、固定相が存在しないため、安定化の短縮、バックグラウンドの低減、および検出器への分析種の迅速な移送が可能になります。さらに、コーティングされていない部分には分析種が保持されないので、必要に応じてトランスファラインをより低い温度に設定することができます。MSインターフェースに取り付ける際は、必ず0.8 mm、60:40べスペル/グラファイトフェラル(これは0.53 mm内径チューブに適したサイズです)を使用し、ナットを締めすぎてLPGCチューブを押しつぶさないように注意してください(図4)。
図 4: 最適な状態で使用するには、内径0.53 mmのカラムチューブに0.8 mm 60:40ベスペル/グラファイトフェラルを使用し、MSナットは締めすぎないようにします。
LPGC-MSの利点を完全に実現するには、300℃を超えるオーブン温度でも30~40℃/分の高いオーブン昇温速度が可能なGCが必要です。米国では、多くの標準的なGCオーブンが120V電源を使用しています。このような120Vオーブンは、LPGC-MSが提供しなければならない最大の速度メリットを得るのに十分な速度で昇温することができません。200+Vを使用している機器では可能ですが、120Vのオーブンでは、RestekのGC RestekのGC Acceleratorオーブンインサートキット(cat.# 23849) のようなオーブンインサートを使用して向上をはかることができます。オーブンインサートは、オーブンの容量を減らす簡単な方法です。これにより、120V機器をインサートなしの場合よりもはるかに速く昇温させることができます。それほど昇温速度を上げずにLPGC-MSを使用することはできますが、より高い温度でより高速な昇温が実現できる機器と同じように分析時間の短縮をすることはできません。
メソッド開発という投資と優れた配当という性能
LPGCカラムキットは、通常のキャピラリGCカラムを取付けるのと同じくらい簡単に物理的なセットアップが可能になりますが、ラボでLPGC-MSを実施するために必要な事前のメソッド開発時間がないという意味ではありません。しかし、LPGC-MSメソッドを確立するための初期投資と、カラム変更時に必要なその後のメソッド維持は、従来のメソッドよりもはるかに高速に実行される数百もの分析によって補われます。
LPGCカラムキットを設置する際に最初に行う必要があることの1つは、GCソフトウェアにカラムサイズを設定することです。GCで複数のセグメントを持つカラムを定義できる場合でも、ご使用のソフトウェアでカラムサイズを定義するには、リストリクタカラムの長さと内径のみを使用することをお勧めします。
従来のGC-MSカラム用に開発されたメソッドからLPGCカラムキットへの移行は、従来のメソッドの開始温度と終了温度を使用し、GCが達成できる昇温速度に応じて、既存の昇温速度を2~4倍にすると簡単におこなえます。メソッドの流量を調整することも有利である場合がありますが、質量分析計に高流量を導入しないように気をつけてください。流量が高すぎると、質量分析計の感度が低下します。また、LPGC-MSメソッドを迅速に行うために設定した同じ流量条件下で質量分析計のチューニングをおこなうことをお勧めします。
LPGC-MSメソッドを確立すると、全体的な分解能がいくらか失われる可能性があります。しかしながら、質量分析計の機能を用いてクロマトグラフィーの共溶出を解決することは、これを補うための強力な方法です。ただし、オリジナルのメソッドに、重要なイオンを共有する極めて密接に溶出する化合物がある場合は、LPGC-MSメソッド開発中の分離に特に注意してください。それらが共溶出し、MSがスペクトルで分離できない場合、より多くのメソッド開発が必要となります。
オンラインメソッドトランスレータは、サイズの異なるカラムについて新しいメソッド条件を計算することを可能にします。ただし、Low-Pressure GCの新しいメソッド条件を計算することはできません。オンラインメソッドトランスレータを用いて従来のGC‐MSカラムからLPGCカラムキットにメソッドを単純に変換することは容易ではないので、何らかのメソッド開発が必要です。しかし、サンプルスループットを大幅に向上させることができれば、このメソッド開発の投資には価値があります。
LPGC-MS導入への信頼できるソリューション
特に、分析を待つサンプルが絶えずやってくるペースの速いラボでは、いかなる新しい手法の実行もリスクとなる可能性があります。そのようなリスクペイオフを達成するためには、新しい手法の安定性を示すことが不可欠です。LPGC-MSメソッド開発がうまくいき、ひとたびカラムキットが設定されれば、長い稼働寿命の過程で確実に実行されることを知っておいてください。LPGCカラムキットは、以下の図5に示すように、数百回の注入の過程にわたって安定した性能を提供します。
Figure 5: LPGC-MSでホウレンソウ抽出物を500回注入した後でも、これらの異性体の分離度、ピーク形状、および保持時間は、実験の過程にわたってほとんど変化しませんでした。
![cgarm-img](https://ez.restek.com/images/cgram/gc_fs0574.png)
Peaks | tR (min) | Conc. (ng/mL) | Parent Ion | Product Ion | Collision Energy | |
---|---|---|---|---|---|---|
1. | cis-Permethrin | 7.82 | 90 | 183 | 153 | 12 |
2. | trans-Permethrin | 7.86 | 90 | 183 | 153 | 12 |
Column | LPGC Rtx-5ms column kit, includes 15 m x 0.53 mm ID x 1.00 μm analytical column w/1 m x 0.53 mm ID integrated transfer line and 5 m x 0.18 mm ID Hydroguard restrictor factory connected via SilTite connector (cat.# 11800) (cat.# 11800) |
---|---|
Standard/Sample | QuEChERS performance standards kit (cat.# 31152) |
Diluent: | Acetonitrile |
Conc.: | 9 µg/mL |
Injection | |
Inj. Vol.: | 1 µL split (split ratio 100:1) |
Liner: | Topaz 4.0 mm ID single taper inlet liner w/ wool (cat.# 23447) |
Inj. Temp.: | 250 °C |
Oven | |
Oven Temp.: | 70 °C (hold 1 min) to 320 °C at 35 °C/min (hold 5 min) |
Carrier Gas | He, constant flow |
Flow Rate: | 2 mL/min |
Detector | TSQ 8000 |
---|---|
Transfer Line Temp.: | 290 °C |
Analyzer Type: | Quadrupole |
Source Temp.: | 325 °C |
Solvent Delay Time: | 2 min |
Instrument | Thermo Scientific TSQ 8000 Triple Quadrupole GC-MS |
Sample Preparation | The spinach matrix was prepared from 10 g of homogenized spinach extracted with QuEChERS EN salts (cat.# 25849) and cleaned up with dSPE containing magnesium sulfate, PSA, C18-EC, and GCB (cat.# 26219). The matrix extract was then spiked with 30 μL of each of the QuEChERS performance mixes for a final concentration of 9 ppm, and the internal standard triphenyl phosphate (TPP) was added at a final concentration of 10 ppm. |
Notes | Between the first and last run, 500 injections of spinach extract spiked with internal standard (TTP) were made. |
従来、分析カラムに接続されたリストリクタカラムを使用するLPGC-MSソリューションの最も脆弱な部分の1つは、カラム接続そのものです。GCオーブンの環境は、カラム接続には厳しい場合があります。広範囲の温度にわたって繰り返しサイクルすると、カラムとコネクタという異なる材質間での一貫性のない膨張および収縮を引き起こし得ます。オーブン冷却中のGCオーブンファンの吹き付けも、カラムコネクタに大きなストレスを与える可能性があります。カラムコネクタでのリークは、サンプルのバッチにとって壊滅的なものになる可能性があり、その結果、再分析が行われ、多くの場合、カラムが交換されることさえあります。LPGC条件下でカラムコネクタにMS真空の影響を加えると、その接続の安定性が重要になります。
これらの課題が、Restekが予め組み立てられたキットとしてLPGCソリューションを提供する理由です。私たちは長年にわたってさまざまなカラム接続技術を徹底的にテストしてきました。 Low-Pressure GC カラムキットに使用されている低熱容量、低デッドボリューム、不活性コネクタは堅牢で、長時間使用しても漏れはありません。特別に訓練された製造担当者は、接続を確実に行うために特別に設計されたツールを使用しており、各カラムは、在庫される前に、品質管理評価の一部として漏れ試験が行われます。
ピーク形状の損傷やレスポンスの有意な変動がなく、図5は、寿命試験中に実施された500回以上のオーブンサイクル中に漏れが発生しなかったという間接的な証拠を示しています。表Iは、GC-MS/MSシステムが実験全体にわたってどの程度密封されたかについての質量分析計の直接的な評価を示します。
表 I: 500回の注入実験の過程における質量分析装置のリークチェック結果。チューニング化合物のレスポンスは実験全体を通じて一貫しており、リークの存在に関連するイオンの質量(例えば、水、窒素、および酸素についてそれぞれm/z18、28、および32)は、機器によって適切な低濃度であると評価されました。このことは、システムが実験を通じてリークのないままであることを示しました。
# of Oven Cycles between 70-320 °C |
% Leak Relative to Tuning Compound |
Order of Magnitude of Tuning Compound (m/z 69) Intensity (10x) |
Tuning Compound (m/z 69) Signal Full Width at Half Max (m/z) |
0 |
5.03 % - Pass |
107 |
0.70 |
100 |
4.69 % - Pass |
107 |
0.71 |
200 |
4.08 % - Pass |
107 |
0.71 |
300 |
3.85 % - Pass |
107 |
0.71 |
400 |
3.40 % - Pass |
107 |
0.71 |
500 |
4.59 % - Pass |
107 |
0.72 |
LPGCカラムキットは、長寿命であることが期待されますが、分析するサンプルの数およびタイプ、ならびに実施されるサンプル前処理の程度に基づいて、時折のメンテナンスが必要です。従来のGC-MSカラムのように、注入口消耗部品(ライナーやシールなど)を交換するだけではシステムの性能を回復できない場合、カラムの一部をトリミングする必要があります。ただし、従来のGC-MSカラムとは異なり、LPGCカラムキットの分離カラム部分はトリミングしません。サンプルからの残留物が蓄積された可能性があるリストリクタカラムをトリミングするだけで済みます。リストリクタカラムの入口側から10~30cmをトリミングすると性能は再確立されますが、リストリクタカラムの長さは5メートルしかないため、できるだけ短いトリミングを行うことをお勧めします。合計3メートルを超えるトリミングをおこなうと、GC注入口における安定したヘッド圧力の達成と維持が困難になる場合があります。カットしたカラムが長すぎると、リストリクタが注入口をMS真空の影響から十分に隔離できない場合があります。
リストリクタカラムをトリミングすると保持時間が変化するため、メソッドパラメータの変更が必要になることに注意してください。GCソフトウェアの条件設定でカラム長さを調整し、同じ流量で測定することができます。または、GCソフトウェアの条件設定でカラム長さは変更せず、線速度を下げるために流量を手動で調整することもできます。どちらの場合も、トリミングによりリストリクタカラムが短くなることを考慮する必要があります。正しくおこなれている場合は、MRMインテグレーションウィンドウを変更する必要はありませんが、サンプル測定の前に必ず確認してください。
LPGCカラムキットを交換する際には、キットを分解して新しいカラムを接続するのではなく、キット全体を交換することをお勧めします。分解して新しいカラムを接続することは可能ではありますが、カラム接続が脆弱もしくは一貫性がないというリスクがあるため、Restekは組み立て済みのキットを提供しています。製造元でリークがないことを実証した接続済みのキットが、LPGC-MSを実装し、そのより迅速な分析時間の恩恵を受ける最も簡単で、迅速かつ極めて信頼性の高い方法となります。
新しいLPGCカラムキットを取付けると、目的化合物の保持時間にいくらかのシフトが見られる可能性があります。このシフトは±10秒を超える可能性があります。化合物間の相対的な分離は、キット間で一貫性を保つ必要がありますが、絶対保持時間のシフトには、保持時間ウィンドウを目的化合物に再割り当てする必要が生じる場合があります。広いイオンモニタリングウィンドウを使用して目的化合物を確実にとらえることができる標準溶液を使用して簡単な分析を実行することにより、必要に応じて保持時間ウィンドウをすばやく再確立できます。また、好ましい保持時間に合わせてキャリヤガス流量を変更することもできます。
Low-Pressure GC-MSの簡単で信頼性の高いセットアップ
新しいLPGCカラムキットを取付けると、目的化合物の保持時間にいくらかのシフトが見られる可能性があります。このシフトは±10秒を超える可能性があります。化合物間の相対的な分離は、キット間で一貫性を保つ必要がありますが、絶対保持時間のシフトには、保持時間ウィンドウを目的化合物に再割り当てする必要が生じる場合があります。広いイオンモニタリングウィンドウを使用して目的化合物を確実にとらえることができる標準溶液を使用して簡単な分析を実行することにより、必要に応じて保持時間ウィンドウをすばやく再確立できます。また、好ましい保持時間に合わせてキャリヤガス流量を変更することもできます。
参考文献
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