水注入に強いWAXカラムは?ーRtx-Waxカラムを用いた水中のグリコール分析ー
はじめに
グリコールは飛行機などの滑走路の除氷から油圧破砕作業まで、非常に幅広い用途に利用されています。グリコールはさまざまな産業において、一般的に使用される化学物質であり、化学系ラボおよび環境ラボなどで残留検査が実施されています。しかし、この分析でもっとも頻繁に用いられるGCサンプル導入方法は、水溶液の直接注入ですが、この場合、分析カラムと注入口ライナーに大きな負担がかかります。なお、この水注入(水溶液注入)に最適なカラムは、一般的にポリエチレングリコール(PEG)固定相が採用されていますが、PEGは独自の選択制を備える高極性固定相であり、水溶媒との新世話性が高いことが知られています。ここでは、様々なベンダーのPEGカラムで、エチレングリコール(EG)およびプロピレングリコール(PG)水溶液のレスポンスを、最適化した条件で評価しました。
本記事では、Rtx-Waxの特徴と利点についてご紹介していきます。
【目次】
- Rtx-Waxを用いた本分析の特徴
- ベンチマーキング
- 分析結果
- 直線性
- 耐久性
- ブリード
- Rtx-Waxを用いた本分析の結論
Rtx-Waxを用いた本分析の特徴
- 高い耐久性があり、繰り返しの水注入に耐えることができます。
- 600回の水注入後も対称なピーク形状を維持できます。
- 低ブリードで、最小0.5 ngのグリコールを正確な検出ができます。
ベンチマーキング
今回の分析・研究では、スプリット注入を使用し、3つの異なるカラムで直線性、耐久性、およびブリードについて評価しました。最適化したスプリット注入法の詳細は、アプリケーションノートEVAN2873で詳しく説明しています。
- Restekカラム
- Rtx-Wax(cat.# 12455)
- Restek以外のカラム
- カラムA
- カラムB
この研究で水中のグリコールを分析に使用したすべてのカラムは新品で、30 m、0.53 mm、1.0 µmです。それらはすべて、ラベルに記載された最高使用温度で1時間のコンディショニングをおこないました。
分析結果
水中のグリコール分析に関するベンチマーキング研究の結果は、表Iにまとめられ、以下で詳細に論じています。
表I: カラムのベンチマーキング結果
カラム | 寿命 | 直線性 | ブリード | |||
通過した注入 * | ピークの対称性 (最終注入) | 最終 r2 | 240℃でのFID反応 (pA) | |||
EG | PG | EG | PG | |||
600 |
0.99 |
0.92 |
0.9999 |
0.9999 |
29 | |
カラムA |
キャリブレーションの下限が満たされなかったため、耐久性試験は実施されませんでした |
53 |
||||
カラムB |
キャリブレーションの下限が満たされなかったため、耐久性試験は実施されませんでした |
60 |
*実験は、ピーク対称性 (ChemStation ソフトウェアを使用して決定された値) が 0.5 未満に低下するか、または注入回数が 600 回に達するまで、どちらか早い方まで繰り返すように設計されました。すべての注入はオンカラムで1 ngです。
直線性
各カラムについて、水中のグリコール分析に適した直線性を確立し、異なる濃度でピーク形状を評価するために、オンカラムで0.5 ngから100 ngのの初期検量線を作成しました。 検量線の最も低い2つのレベル、0.5および1.0 ngのオンカラムでは、カラムブリードが高くEGとPGを検出することができなかったため、競合他社のカラムAおよびBは直線性と耐久性の実験から除外しました。
それに対し、Rtx-WaxカラムではEGとPGの両方で優れた直線性が得られました(図1および図2)。 水がカラムへ潜在的にダメージを与える可能性があるスプリットレス注入で600回もの水注入という厳しい条件下においても、Rtx-Waxカラムは容易くキャリブレーションのチェックを満たすことができました。 なお、低ブリード特性のカラムの結果として、EGとPGの低濃度での高いレスポンスは、キャリブレーション範囲全体で優れた直線性を得る一因となります。
図1: Rtx-Waxカラムは600回の水注入後でも、プロピレングリコール(0.5–100 ngオンカラム)分析において検量線の直線性が得られました。
図2: Rtx-Waxカラムは600回の水注入後でも、エチレングリコール(0.5–100 ngオンカラム)分析において検量線の直線性が得られました。
耐久性
Rtx-Waxカラムの耐久性試験は、水を10回( 1 µL スプリットレス)注入した後に、50µg/mLグリコール標準液( 50:1 スプリット注入、オンカラム量 1 ng)を注入しました。 実験は、ピーク対称性 (ChemStation ソフトウェアを使用して決定された値) が 0.5 未満に低下するか、または注入回数が 600 回に達するまで、どちらか早い方まで繰り返すように設計されました。 図3に示したように、Rtx-Waxカラムは600回の注入後でも優れたピーク形状を維持しました。 実際のところ、Rtx-Waxカラムは拡張耐久性実験で1600回以上の水注入に耐え、最後の実験でもピーク対称性が0.9を上回っていました。
図3: Rtx-Waxカラムのプロピレングリコールとエチレングリコールのピーク形状および保持時間は、600回の水注入後も変わりません
![cgarm-img](https://ez.restek.com/images/cgram/gc_ev1454.png)
Peaks | tR (min) | |
---|---|---|
1. | 2-Butoxyethanol (IS) | 5.55 |
2. | Propylene glycol | 6.27 |
3. | Ethylene glycol | 6.41 |
Column | Rtx-Wax, 30 m, 0.53 mm ID, 1.00 µm (cat.# 12455) |
---|---|
Standard/Sample | Glycols standard (cat.# 30471) |
2-Butoxyethanol | |
Diluent: | Water:methanol (90:10) |
Conc.: | 50 µg/mL (1 ng on-column) |
Injection | |
Inj. Vol.: | 1 µL split (split ratio 50:1) |
Liner: | Premium 4 mm Precision inlet liner w/wool (cat.# 23305) |
Inj. Temp.: | 250 °C |
Oven | |
Oven Temp.: | 40 °C (hold 1 min) to 250 °C at 30 °C/min |
Carrier Gas | He, constant flow |
Flow Rate: | 5.7 mL/min |
Linear Velocity: | 40 cm/sec |
Detector | FID @ 250 °C |
---|---|
Make-up Gas Flow Rate: | 45 mL/min |
Make-up Gas Type: | N2 |
Hydrogen flow: | 40 mL/min |
Air flow: | 450 mL/min |
Data Rate: | 20 Hz |
Instrument | Agilent/HP6890 GC |
ブリード
水中のグリコールの分析におけるPEGカラム評価の最終テストは、ブリード実験です。 3つのカラムすべてを一般的な最高使用温度である240°Cまで昇温しました。 最終のブリード測定では、Rtx-Waxが最も低いブリードを示す結果となりました(表I、図4)。 ただし、Rtx-Waxの最高使用温度は、これよりも高い(250°C)ため、より高い温度が必要な場合でも安心して使用することができます。 なお、カラムブリードが低いため、分析対象物の濃度が低い場合でも感度が向上します。
図4: Rtx-Waxカラムは、検証されたカラムの中で最も低いブリードを示し、最高使用温度(競合他社カラムは240°C、Rtx-Waxカラムは250°C)でも低いままでした。
![cgarm-img](https://ez.restek.com/images/cgram/gc_ev1456.png)
Peaks | tR (min) | |
---|---|---|
1. | 2-Butoxyethanol (IS) | 4.43 |
Column | Rtx-Wax, 30 m, 0.53 mm ID, 1.00 µm (cat.# 12455) |
---|---|
Standard/Sample | 2-Butoxyethanol |
Diluent: | Water:methanol (90:10) |
Conc.: | 200 µg/mL (10 ng on-column) |
Injection | |
Inj. Vol.: | 1 µL split (split ratio 20:1) |
Liner: | Premium 4.0 mm ID Precision inlet liner w/wool (cat.# 23305) |
Inj. Temp.: | 240 °C |
Oven | |
Oven Temp.: | 40 °C to 240 °C at 30 °C/min (hold 10 min) to 250 °C at 30 °C/min (hold 10 min) to 260 °C at 30 °C/min (hold 10 min) |
Carrier Gas | He, constant flow |
Linear Velocity: | 40 cm/sec |
Detector | FID @ 240 °C |
---|---|
Make-up Gas Flow Rate: | 45 mL/min |
Make-up Gas Type: | N2 |
Hydrogen flow: | 40 mL/min |
Air flow: | 450 mL/min |
Data Rate: | 20 Hz |
Instrument | Agilent/HP6890 GC |
Notes | All column dimensions: 30 m, 0.53 mm ID, 1.00 μm |
結論
この研究で評価したポリエチレングリコールベースのカラムの中で、Rtx-Waxは直線性、耐久性、およびブリードの面で最も優れた性能を発揮し、600回の水注入という過酷な条件後でも、初めの注入と同様に優れた性能を発揮しました。
この点において、Rtx-Waxは、水中のグリコール分析において頑丈で信頼性のあるソリューションと言えるでしょう。